子どもの声を聞き最高においしい給食を目指す栄養士 松丸奨さん

まなび

夏休みに入ると、学校給食のありがたさを痛感しますね。

7月31日のTBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」のゲストで、小学校で管理栄養士をされている松丸奨さんが、学校給食のお話をされていました。

子どもの頃給食が苦手だった松丸さんの人生を変えた出来事や、最高においしい給食を目指して試行錯誤し、子どもたちに寄り添い声を聞く日々など、

給食や栄養士の仕事への理解を深めることができるお話をご紹介します。

給食が苦手なお子さんへのヒントになるお話なので、ぜひお子さんにも伝えていただければと思います。



学校給食の歴史

1889年(明治22年) 山形県鶴岡町(現・鶴岡市) 大督寺内の私立忠愛小学校で、生活困窮児童に無償で提供されたのが初めての給食と言われています。

托鉢で頂いたお金や米で、おにぎり、焼鮭、漬物を与えていました。8年後に大督寺が火災にありましたが、昭和20年まで続けられていました。

昭和初期に給食を提供する学校が増加していきました。戦争で食料が不足して中断されていましたが、戦後にアメリカなどの食料援助で再開しました。

この時代の給食は、米飯ではなくパンが主食でした。お米を一度で大量に炊飯をするための炊飯器が準備できませんでしたが、パンなら大量に焼くことができました。

今の給食はいつも牛乳が出ていますが、当時のトラックでは冷蔵設備がなく、牛乳を配送する技術がありませんでした。栄養を補うために乳製品を提供したかったので、粉を水で溶くだけの脱脂粉乳を提供していました。

1952年(昭和27年) 全国に給食が提供されるようになりました。

現在では自校方式(校内で調理をする)が6割、給食センター方式が4割です。

松丸奨さんのプロフィール

1983年 千葉県松戸市生まれ

華学園栄養専門学校 卒業後 栄養士として病院勤務

2008年 文京区内の小学校に勤務

2013年 全国学校給食甲子園にて男性栄養士で初めての優勝

学校給食の栄養士を目指したきっかけ

小学校に入学したころは、給食が苦手で食べられませんでした。ある日、栄養士さんが「給食にはきみの体のためになるものしか入っていない。一口でいいから、頑張って食べたら、きっといいことが起きるよ」とアドバイスをもらいました。

「一口なら頑張って食べられる」と思って食べてみると、たまたま逆上がりができて、「これは給食のおかげかも」と思いました。その後も、「今日はなんとなく足が速いかも、これも給食のおかげかも」と思うようになりました。「もう一口食べたら、二重跳びができるかも」と、どんどん食べられるようになって、給食が大好きになりました。

高校で進路を考える時期に、担任の先生から「自分の好きなことを仕事にできたら素敵」という言葉をもらい、好きな給食に関われる栄養士の専門学校へ入学しました。

卒業後、その頃は学校の栄養士はまだ女性ばかりだったので採用されないだろうと思い、病院で栄養士としての経験を積むことにします。

5年間働いて、ついに文京区の小学校へ採用されました。

学校給食の栄養士の仕事

*食材の発注・請求書の管理・支払いを行う。

*献立を考える。決められた栄養価や食品構成(食材はなにを使うか決まっている)に則って考える。

給食は一食265円なので、食材が高騰している中でもなんとかやりくりをしています。一ヶ月単位で、値段や栄養価を調整します。洋食、中華のメニューのときはカロリーが高いので、和食のメニューを入れてカロリーを抑えるようにしています。

地産地消の取り組みから、食材はできるだけ地元のものを使います。農家さんの応援し、地域を活性化する意味でもあります。

地域によって使ってはいけない食材やレシピがあります。文京区では出来合いのものは使うことができないので、ケーキ、プリン、ゼリーも手作りのものを出しています。コロッケなどの冷凍食品も使うことはできません。

*松丸さんの小学校では、600食を7人で作っている。

他の施設では3食プラスおやつもあるところがありますが、小学校では昼の1食のみです。ほかの食事で栄養を補うことができないので、給食づくりに本気で取り組んでいます。

*戻ってきた食缶に残っているものを、品目ごとに重さを量る。残っているものを把握して、今後の献立に活かす。

*夏休みにも献立を考えたり、業者との連絡など仕事はたくさんある。

わたしも調理員さんが大掃除や料理器具のメンテナンスをされていたのを見たことがあります。普段子どもたちから見えないところでたくさんの仕事をされています。

全国学校給食甲子園で優勝

全国学校給食甲子園とは、地場産物を活かした献立をテーマにして競う大会です。2006年から毎年開催されています。

書類審査のあと、そこから都道府県代表、ブロック代表の審査があり、上位12校が決勝に進出します。

決勝では、料理とプレゼンテーションの審査があります。

松丸さんは2010年から優勝を目指して取り組み、2013年第8回大会で見事優勝しました。

地方には海の幸、山の幸とおいしい食材が豊富で、都市には無く不利だと思っていました。それでも東京がこれだけ発展したのは、地方から食材が集まってきて、色々なものが育まれてきたからではと考えました。

調べていくうちに、伝統野菜にたどり着きました。

(伝統野菜とは、古くから各地の風土にあった特有の野菜が栽培されていたもの。生産・流通・販売に都合の良い均一化がされ、生産がされなくなってきたが、伝統野菜のもつ風味の良さが見直されるようになり、脚光を浴びるようになってきた)

優勝した献立に使ったのは、江戸東京野菜の「のらぼう菜」を使ったまぜごはんです。

のらぼう菜は、江戸時代に西多摩地区で栽培されていて、小松菜に似ていて甘味のある葉物野菜です。

飢饉で食べ物がないときに、のらぼう菜だけは生えていたので、お助け野菜と呼ばれていたそうです。

子どもたちはヒーローの話が好きなので、のらぼう菜の話を喜んでくれると思って紹介したそうです。

伝統野菜を栽培されている農家さんは少なくて、野菜を仕入れるのは大変だったようです。

男性の栄養士がいきなり頼むと不審がられるので、農家さんに信頼してもらうために、土日に行って草取りなどの手伝いをして交流を深めたそうです。

優勝の報告をしたときは大変喜んでくださったそうです。

きびの黄色、ゆかりの紫、のらぼう菜の緑で江戸の色を表すまぜごはんにしたそうです。食べてみたいですね。



最高においしい給食を目指して乗り越えた壁

以前、ラーメン激戦区にある小学校に勤務していた時に、ラーメン屋を超えるラーメンを給食で出したいを思ったそうです。

仕事終わりにラーメン屋に通って、出汁の研究をしました。どの食材を使っているのか知りたいときは、店長さんには聞けなかったので、お店の裏に置いてあった段ボールに書いてある業者に電話をして教えてもらいました。

しかし予算が合わないので、なんとか安い食材で作れないかと、業者に粘って相談しました。そこで教えてもらったのが、ノーブランドの食材です。羅臼昆布とか日高昆布などの高級品は、獲れる場所によってブランド名がつきます。その場所から少し外れたところで獲れたものは、ブランド名をつけることができませんが、味はほとんど変わらないそうです。

こうしてノーブランドの食材を使って安くておいしい出汁を作ることができました。子どもたちだけでなく、先生からも、「給食のレベルではない」と絶賛され嬉しかったそうです。

何にでも、情熱を傾けて本気を出したら、乗り越えられない壁はないと思っているそうです。

残食ゼロを目指して研究・工夫の日々

松丸さんは、周りから「給食なのに。給食だから。」と言われても、「給食だからこそ、本気でやりましょう」という思いがあるそうです。

児童に最高においしいと言って食べてもらいたいと思い、研究し工夫を凝らしています。

苦手な野菜はりんごやたまねぎのすりおろしで甘味を付ける工夫をされています。家庭でも試したいですね。

ある時、人気メニューの揚げパンの日に、「今日は揚げパンだよ」と児童に声をかけていたら、2年生の男子が「揚げパンかぁ。胃にもたれるんだよなぁ」と言ったそうです。

それまで、揚げパンは適当な時間で揚げていたので、中には揚げすぎのものもありました。これではいけないと思い、温度計とタイマーで、ベストな揚げ油の温度と揚げ時間を研究しました。一ヶ月揚げパンを揚げ続けて、揚げ油200度で1分10秒間揚げるのがベストだと突き止めたそうです。

その後、男子にどうだったかと尋ねると「これなら胃は大丈夫!」と言ってくれたそうです。

子どもたちが親しみやすい栄養士になりたい

みなさんは学校の先生の顔や名前は知っているでしょうが、栄養士さんはどうですか?

松丸さんは、「顔と名前を思い浮かべてもらえる身近な存在になりたい」と考えています。児童と近い存在になれば、苦手なものを相談されたときに対応できるからです。

そのために、配膳中や食事中にクラスを回って、子どもたちとふれあい、心に寄り添っているそうです。

ご自身が小学生のとき、栄養士さんに人生をかえてもらったので、児童の人生を左右するものだと身をもって分かっているからです。

 

松丸さんの給食への熱い想いに感動しました。

高い志をもって、楽しく取り組んでいらっしゃる姿は、子どもたちには自分たちのために頑張ってくれていると伝わりますし、大人としても指針となっていることでしょう。

食べる楽しさを伝える本

松丸さんの著書を紹介します。

「子どもがすくすく育つ日本一の給食レシピ」 講談社

子どもたちに大人気な給食のレシピを紹介しています。どの料理も栄養バランスが良く、色鮮やかで美味しそうなので家庭料理でも重宝しそうです。

 

「ママと子のごはんの悩みがなくなる本」 サンマーク出版

子どもの好き嫌いなど、子育て中の保護者の「食」に関する悩みに答えられていて、とても参考になります。好き嫌い克服レシピも紹介されています。

 

「日本一の給食メシ」 光文社

忙しい人におすすめの、簡単な工程で作れる「作りやすさ」を重視した時短レシピです。子どもと一緒に作る料理にもぴったりです。

 

食の悩みを解決するヒントになると思いますので、ぜひ読んでみてください。

最後まで読んでくださりありがとうございました。



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