みなさんは普段辞書を使うこと、ありますか?
「スマホや電子辞書で簡単に調べられるから、それで十分!」という人が多いかもしれません。
紙の辞書にはどんな利点があるのでしょうか。
実は辞書を読み比べると、載っている言葉や解説の仕方が違い、調べる目的によって使い分けることができるんです。
今回はTBSラジオ「たまむすび」に出演された、校閲者で辞書マニアの稲川智樹さんが語る、辞書の魅力と「推し辞書」をご紹介します。
稲川智樹さんのプロフィール
1993年 愛知県生まれ。
2015年 早稲田大学法学部卒業。
講談社に入社後、校閲部門で主に週刊誌、小説、学芸書などを担当。
大好きな辞書のコレクターをして、魅力をイベント出演やYouTubeで発信中。
校閲の仕事とは
原稿の誤字脱字や言葉の間違いや、事実関係の間違いを指摘する仕事です。
本にする段階で、ほぼ完成した段階で試し刷りをしたものをゲラと呼びます。
このゲラを読んで、不備が無いかを確認します。
ミステリー小説の校閲をするときは、トリックがきちんと成立するかどうか検証してみるそうです。
意外と知られていないかもしれませんが、校閲者は作家と顔を合わせることはありません。
校閲の際には、原稿に赤字で間違いを書き込んで渡すそうですが、作家さんに失礼にならないように気を遣って書き込みをするそうです。
校閲者に一番必要な能力は、一字一句間違えていないかをチェックできる力です。
そのためには、言葉に精通していなければいけません。
調べる事柄を、どの辞典を使えばよいのかを判断して調べるそうです。
校閲者は、作品の内容について思うことがあっても、作家へ作品の感想を伝えることはできません。
校閲者の役割は、書いてある文章を作者の思い通りの内容になるように100点にすることです。
それ以上の作品にするのは作家や編集者の仕事です。
なぜ校閲者になろうと思ったのか
稲川智樹さんは、中学生の時から国語辞典を開いては読みふけっていたそうです。
大好きな辞書を活かせる仕事をしたいと思い、校閲者を選んだそうです。
出来れば、辞書編纂の仕事がしたかったそうです。
辞書の魅力に惹かれ辞書コレクターへ
家に二種類の国語辞典があり、同じ言葉でも書かれていることが違っていて興味を持ちました。
大学生で一人暮らしになってから、辞書をたくさん置けるスペースができたので買い足し、800冊にもなったそうです。
今は、同じ辞書コレクター仲間とアパートを借りて、そこを辞書部屋にしているそうです。
国語辞典の魅力とは
それぞれの国語辞典はポリシーを持って作られているので、個性があるそうです。
調べるときは辞書の個性を生かして、「新しい言葉を調べるときはこの辞書」とか「言葉の使い方が知りたいときはこの辞書」という感じで使い分けをしています。
編纂されて新しいものが発売されると、古いものと比べて、新しく入った言葉を見つけたり、内容の違いを見つけたりして、仲間と検証する楽しみがあるそうです。
自分たちで、町にある看板などから気になる言葉を集めていて、辞書に入るかどうか予想しているそうです。
辞書マニアが選ぶ推し辞書(おすすめの国語辞典)
辞書界の大発明! 「現代国語例解辞典」 小学館
この辞典は、類語の使い分けが詳しく記載されていて、示し方が特徴的です。
類語対比表になっていて、似ている意味の言葉を表にしてあるので分かりやすいです。
例えば、「叱る・怒る・たしなめる」の使い方ですが、
「先生に〇〇れる」 と使う場合は、「叱られる・怒られる・たしなめられる」 とすべて使えます。
「頭ごなしに〇〇れる」 の場合は、「叱られる・怒られる」は使いますが、「たしなめられる」は使いません。
〇×の表記で使えるか使えないかを分かりやすく示してあります。
読んでいるだけで楽しい! 「岩波国語辞典」 岩波書店
この辞典は、言葉の根本的な意味だけではなく、語釈が詳しく載っています。言葉の発祥から、言葉の持つイメージの移り変わりなど、読むといろいろな知識を得られる辞典です。
言葉の歴史を調べたいときにはこの国語辞典で調べるといいです。
例えば、「おたく」の項目に書かれているのは次のようです。
普通はかな書き
1983年に中森明夫がおたく研究で言い出した頃には、視野が狭く社交性に欠けるものというイメージを伴っていた。
90年代以降、サブカルチャーとして積極性を帯びても使う。
「をたく」あるいは、「おた」 と書くこともある。
本来の言葉の意味以外に読み応えのある内容になっていますね。
もっと辞書について知りたい方は・・・
「辞典語辞典」 誠文堂新光社
こちらの本は、稲川智樹さんが仲間と一緒に書かれた本です。
辞書にまつわる言葉や人物を集めて解説をしています。
辞典作成に関するエピソードや、ドラマに出てくる辞典の話題などの小話もあるので面白いです。
イラスト付きで飽きずに読み進められます。
辞書を使うのが楽しくなりそうですね。
言葉の研究は奥深い
辞書作成といえば・・・
以前、辞書の編纂者たちの物語、三浦しをん著「舟を編む」を読んで感動したことがあります。
国語辞典には個性があることに驚きました。
一語一語意味を解説する文章にも、編纂者たちの個性が出るので面白いです。
また、日々新しい言葉が生まれて、言葉の使い方も変わっていくので、言葉の研究には終わりが無いことを知りました。
稲川智樹さんは、辞書に気になる言葉や用例など見つけて付箋を貼って、楽しんでいるそうです。日頃から新しい言葉にアンテナを張っていて、見習いたいと思いました。
子どもの語彙を増やすには、読書がよいですが、意味の分からない言葉が出てくるとつまずいてしまいますね。言葉に興味をもって、自分で辞書で調べることができるといいですね。
稲川さんのお話で、辞書へのイメージが変わりました。推し辞書を読んでみたくなりました。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。