みなさんは、葉っぱ切り絵作家のリトさんをご存知ですか?
リトさんは、一枚の葉っぱを使った切り絵を制作して、SNSに作品を投稿されているアーティストの方です。
インスタグラムを観て、リトさんの作品に強烈に惹かれました。ひとつひとつの作品に込められた物語に、自分や周りの人と重ねながら共感できて、心が動かされます。
リトさんはADHDを公言していて、「偏った集中力」を活かせるアートと出会い、生活すべてが変わったと話していました。
今回は、職場に適応できずADHDと診断され、個性を活かせるアートの道を見つけたリトさんのお話をご紹介します。
学生時代には分からなかったADHD
ADHDは、人によってそれぞれ度合いが違いますが、このような特性があります。
- 集中力がない
- じっとしていられない
- 思いつくとすぐに行動してしまう
- 子どもの頃には見過ごされていた不注意やケアレスミスが、大人になって仕事や生活に大きな支障をきたす
リトさんは、子どもの頃から一つの事に集中すると、何時間でも集中し続けていました。
たとえば、プラモデルを作るときに細部までやすり掛けをしていたり、
食事のときに魚の骨や、カニの身を取ることにずっと夢中になって食べるのを忘れたりすることもあったそうです。
しかし、学校で周りの友だちから指摘されることもなく、自分がADHDとは気がつかずに過ごしていたそうです。
社会ではダメ人間
就職して仕事を始めると、叱られることばかりでした。
言われたことを忘れる。メモをしても、見ることを忘れる。
聞かれたことに応えられない。
一つの事に集中したら、周りが見えなくなり、気になることがあるとそれを優先してしまう。
人に言われて初めて気がつく。
人より先に行動することができない。良かれと思ってしたことが迷惑だった。
仕事がうまくいかずに叱られて、自分に自信がなくなっていきました。
「やる気を出しなさい」と言われてきましたが、やる気はあるのに周りに伝わらず、どうやったら分かってもらえるのか分からなくて悩んだそうです。
学生時代は普通だったのに、「社会ではどうしてこんなに使えないダメ人間なのだろうか」、「努力が足りないし怠けているからだ」と自分を責めていました。
圧倒的に他の人よりも失敗が多く、自分に自信がありませんでした。
朝、出勤の電車の中で「また失望されるのでは、足を引っ張ってしまうのでは」と、ビクビクしながら考えていたそうです。
ADHDの診断のおかげで前に進めた
社会に出て9年目に、ADHDと診断されました。
今まで、自分がダメなのは自分の責任だと思っていたリトさんは、診断によって逃げ道が見つかって良かったと感じたそうです。
周りの人たちと同じように就活をして、同じようにレールに乗ってきたけれど、自分は人と同じように会社勤めはできないと分かって、退職します。
そして、何か他の生き方を見つけていこうと決断します。
診断のおかげで、初めて自分の意志で決断して、自分で旗を立てて、こう生きていこうと決心することができました。
それから、アートの講座をうけることにします。
「コミュニティに入らず、一人でいる時間は障害者ではない」「こうやって生きていれば障害者として生きていく必要はない」と思えて幸せだったそうです。
葉っぱ切り絵が人生を変えてくれた
他の人が誰もしていないアートを造りたいと考えて、素材に葉っぱを使うことにしました。
元々、同じADHDに悩む人たちに向けて、専門書を読んで勉強してSNSで情報を発信していました。そこに、葉っぱ切り絵の作品を投稿するようになりました。
だんだんとコメントをしてくれる人が増えてきて、そのコメントに返信し、交流するようになりました。
作品を観て喜んでもらえることが喜びで、励みになりました。
会社では、よかれと思ってしたことが迷惑になってしまい、なるべく手を出さないようにしていました。
その頃は褒められる経験が少なかったけれど、今はやった分だけ喜んでもらえて、本当に嬉しいと話していました。
痛みを知る人の優しさは誰かの助けになる
自分のやりたいことを見つけるのは大変で、なかなか見つかりません。
でも、人のためになることはたくさんあります。困っている人はたくさんいます。
こんな自分でも人の役に立つことはないだろうかと考えて、ちょっとしたことでもいいので、人のためになることをしてみる。
それでお礼を言ってもらえると、生きていてよかったと思えます。
作品を観て、「毎日楽しみにしています。」「リトさんのおかげで考え方が変わりました。」とコメントをもらえることが原動力になっています。
観ている人の心を動かす武器
切り絵作品が、新しい世界への架け橋となってくれています。
メディアに取り上げてもらって、テレビやラジオでいろいろな方々と出会えました。
何もなかった自分の唯一の武器になりました。
だからこそ、心を込めて切っています。小さな穴を空けるときに、パンチを使えば簡単ですが、観てくれた人の反応が違うでしょう。
どんなに細かい作業でも、デザインナイフ1本でゼロから作っているからこそ、それを込みで感動してくれるんだと思います。
作品を完成させて、インスタグラムにアップし終えたら、お風呂にゆっくり浸かってスマホから離れて、リフレッシュするのが日課とのことです。
温かい人柄と想いがつまった作品
リトさんは、ご自身の特性にあったアートをご自身で見つけました。それは、誰かの役に立ちたいという優しさがあったからですね。
とても素敵な作品で、作品の題名にもリトさんの感性が感じられます。
リトさんの作品集などをご紹介します。
「素敵な空が見えるよ、明日もきっと」 講談社
絵本仕立ての作品集です。
かわいらしい森の仲間たちの温かい物語に癒されます。
自分もその物語に入り込めて、優しくなれたり前向きになれたりします。
「いつでも君のそばにいる」 講談社
収録されたひとつひとつの作品にストーリーを書き下ろした作品集です。
落ち込んでいるときにも、また頑張ろうという力をもらえます。
文章も素敵で、何度も観ながら読み返したくなります。
「離れていても伝えたい」 講談社
葉っぱ切り絵のメッセージカードブックです。
大切な人に贈ったり、自分用に飾ったりできます。アートブックとして手元に置いておくのもいいですね♪
「葉っぱ切り絵カレンダー2023」 講談社
季節をテーマにした作品の週めくりカレンダーです。
週替わりで楽しめる作品から、ストーリーや季節の移り変わりを感じられます。
各地で作品展も開催されているので、ぜひインスタグラムをチェックしてみてくださいね。
こちらの記事で、リトさんの作品の魅力や製作のようすを紹介しています。
多様性を活かしていく社会へ
最後に、「ニューロダイバーシティ」について、社会学者 池上英子さんのお話を紹介したいと思います。
ニューロダイバーシティとは、脳や神経の特性を人の自然な変異として認めて尊重し、社会の中で活かしていく考え方です。
1998年にコラムに書かれたことから広がっていきました。
個人の特性は、世界を違う色の眼鏡をかけて見ているようなもので、それぞれ人によって見え方が違います。
多数派の人たちの見え方によって世界がまわっていくので、少数派の特性だと生きにくくなっていきます。
ニューロダイバーシティの考え方を、教育の分野で取り入れることで理解が深まります。
例えば、じっとしていられない子どもへのサポートを考えるときに、「じっとしていられないのは、見えすぎているからで、音や匂いを感じすぎて、耐えられないからかもしれない。」と本人の見え方や感覚を理解することが大切です。
その人に合ったサポートをすれば、素晴らしい才能が開花するかもしれません。
弱い部分や苦手なところを周りがどう補って、サポートできるか、本人がどのくらい頑張れるかの判断をしていくことが大切です。
ニューロダイバーシティという考え方は、他の障害や病気を持つ人たちに対しても、同じような考え方が広まるといいですね。
リトさんはアートの道に出会うまで、ずっと自分を責めて、否定していました。本当に苦しかったと思います。
会社を辞めたのも、ギリギリまで頑張ってそれでもできなかったからで、簡単に辞めたのではないです。
だからこそ、観る人に優しさをくれる作品を生み出せるのだと思います。
TBSラジオ「アシタノカレッジ」に2021.5.18と2022.8.3にご出演されています。
公式YouTubeもあるので、そちらも聞いてみてくださいね。
最後まで読んでくださりありがとうございます。